前回は、聖マリアンナ医科大学病院とたちばな台病院の下り搬送連携が、地域の救急医療を支える仕組みであることを紹介しました。
今回は、その連携の先にある、患者さん本人とご家族の暮らしに目を向けます。
救急搬送され、高度急性期病院で必要な治療を受ける。病状が落ち着き、命に関わる状態を脱する。けれど、そこからすぐに元の生活へ戻れるとは限りません。
高齢で複数の病気を抱えている。入院をきっかけに足腰が弱くなった。認知症やせん妄がある。家族が介護に不安を抱えている。独居や老老介護、身寄りのなさ、経済的な課題など、医療だけでは解決できない事情がある。
急性期の治療が終わっても、その人の暮らしは、まだ再び動き出していないことがあります。
そこで必要になるのが、病気を「治す医療」から、地域での暮らしを見据えた「治し支える医療」への橋渡しです。
たちばな台病院では、総合診療医を中心に、患者さんの病状だけでなく、生活背景や家族状況も含めて受け止めています。
総合診療医は、一つの臓器や疾患だけを見るのではなく、複数の病気、身体機能、認知機能、心理社会的な課題を含めて、その人全体を診ます。
病名だけでは割り切れない。専門科だけでは判断しにくい。医学的には落ち着いていても、生活に戻るには支援が必要。
そうした患者さんを、まず相談できる。この“間口の広さ”が、コミュニティホスピタルとしての大きな役割です。
聖マリアンナ医科大学病院ベッドコントロールセンターの加藤一徳さんは、たちばな台病院の強みについて、在宅医療や在宅療養に関する知見、患者さんとのコミュニケーション力を挙げます。それは、総合診療医が日頃から大切にしている視点でもあります。
「この人は、この後どこで、どのように暮らしていくのか」
病気だけではなく、暮らしを見据える。その視点が、下り搬送後の支援を支えています。
一方で、連携は医師同士の判断だけで成り立つものではありません。
時間的に余裕のあるケース、退院支援や介護サービスの調整が必要なケース、家族との話し合いが必要なケースでは、地域連携室同士のやり取りが重要になります。
たちばな台病院地域連携室の鈴木さんは、聖マリアンナ医科大学病院の担当者と連携しながら、一つひとつのケースに応じて調整を進めています。
早く判断すべきケースは医師同士で。社会的な調整を丁寧に進めるケースは連携室同士で。必要に応じて、医師、看護師、リハビリ職、地域連携室、入退院支援センターがつながる。
ケースによって連携の形を変えられることが、両院の関係性の強みです。

聖マリアンナ医科大学病院側からも、鈴木さんやたちばな台病院との連携を通じて、介護的な視点や社会的な調整について学ぶことが多いという声がありました。
高度急性期病院は、重症患者さんの治療や救急対応を担います。地域の病院は、退院後の暮らし、介護サービス、家族の不安、在宅療養の準備に向き合います。
役割が違うからこそ、学び合える。そして、その学びが次の患者さんの支援につながっていきます。
もちろん、急に搬送された患者さんやご家族にとって、短期間で別の病院へ移ることには不安もあります。
「このまま同じ病院で診てもらいたい」「転院して大丈夫なのか」「なぜ病院を移らなければいけないのか」
そう感じるのは自然なことです。
だからこそ、下り搬送には丁寧な説明と納得が欠かせません。
伊藤医師は、最近では病院同士の役割分担について、患者さんやご家族の理解も少しずつ進んできていると話します。聖マリアンナ医科大学病院側で、転院の必要性をしっかり説明してくれていることもあり、たちばな台病院で大きなトラブルやクレームにつながることはほとんどないといいます。
たちばな台病院では、多職種のチームで患者さんを受け止めます。
医師が病状を診る。看護師が日々の変化を見守る。リハビリ職が身体機能や生活動作を支える。地域連携室や入退院支援センターが、家族や地域の支援者とつながる。
そして、総合診療医が、医学的な問題と生活上の課題を切り離さずに見ていきます。
病気を治すだけでなく、その人がどこで、誰と、どのように暮らしていくのかを一緒に考える。必要であれば、在宅医療、介護サービス、施設、地域の支援者へつなぐ。
ここに、「治し支える医療」の実践があります。
加藤さんは、たちばな台病院との連携について、印象的な言葉を残しています。
「たちばな台病院と話していると、患者さんや地域を主語に話していることに気づく」
この言葉は、今回の連携を象徴しています。
下り搬送は、病院の都合だけで行うものではありません。主語は、あくまでも患者さん本人であり、ご家族であり、地域です。
救急で運ばれた患者さんが、必要な治療を受ける。その後、安心して次の療養や生活へ向かう。家族が不安を抱えたまま置き去りにされるのではなく、これからの見通しを持てる。次に救急医療を必要とする地域の人が、必要な医療につながれる。そのために、高度急性期病院とコミュニティホスピタルが、それぞれの役割を発揮しながら連携する。
総合診療医は、病気だけでなく、生活背景や心理社会的課題を含めて患者さんを診る。地域連携室は、病院と病院、医療と介護、患者さんと地域をつなぐ。高度急性期病院は、必要な治療を必要な人へ届け続ける。
この連携は、「治す医療」と「治し支える医療」が地域の中でつながる一つの形です。
高度急性期から、地域の暮らしへ。治療の先にある、その人らしい生活へ。
コミュニティホスピタルには、そんな橋渡しの役割があります。
