今回は、総合診療プログラム「CCH総診」の第一期生 専攻医の伊藤 龍一医師です(取材時点で医師5年目)。伊藤先生は、CCH総診で岡崎医療センター、同善病院、桜新町アーバンクリニック、東京都立広尾病院で研修をされ、2025年10月よりたちばな台病院にて総合診療科の立ち上げにも関わられています。
医師を志したきっかけや、CCH総診でそれぞれの研修先でそれぞれ違う医療ができたことを振り返っててみてどうだったのか、今後のやりたいと思う医療とは?など、伊藤先生の学ぶことへの興味や好奇心あふれるいろいろなお話を伺いました。
医師を志すまでの道のり
━ まずは先生の経歴を教えていただけますか?
出身は東京です。
中高一貫校に入って、その後大学は理工系大学の物理学科に入りました。
宇宙の成り立ち等にすごい興味があったので
物理学科に行って、物理学者になって宇宙の研究をしようと思っていました。
物理に興味を持ったきっかけは、高校生の時の授業が楽しかったからです。
しかし、物理学科を卒業する先輩方があまり研究室に行っておらず、食品メーカーとかあまり関係ないところに就職している人が多くて、そこに違和感を感じていました。
「物理をずっと研究していても、食べていけないかも…」とも思うようになりました。
自分のやりたいことが本当に物理なのか、ということを大学1,2年くらいの時に考え出して。
自分探しの旅じゃないですけど、東南アジアによくバックパック一つで数ヶ月旅行に行くみたいなことをやっていました。
大学2年生の時にインドネシアの無人島みたいなところに行ったんですね。そこで友達とサーフィンをする生活を2ヶ月ぐらいして。
が、その島に行って帰ってきたら、発熱しまして、
そこから2ヶ月入院することになりました。
その際に最初の1ヶ月、診断がされずにいたんです。
発熱の原因が不明ということで、不明熱としてステロイドの治療とかが始まって、
色々な検査をしても異常が出なかったんです。
1ヶ月経った時に、新しく赴任されてきた感染症科の部長の先生が僕を診て、一発で「これはリケッチア症」だと診断してくれたんです。
―リケッチア症!
そうなんですよ。
有名な病気なんですけど、僕の場合は特に臨床的には非典型な経過をたどっていて。
なのに一発で診断してくれたんです。
どういう根拠を持ってリケッチア症だって診断されたのか、当時医者でもないですし、自分にはわからなかったのですが、1ヶ月目でステロイドの治療とかも全部終わらせて、抗菌薬の治療をして、スッと良くなり2ヶ月目で退院できたんです。
で、そこから医学に興味が湧くようになりました。医者、いいなって。
物理学科に行きたいと思った理由ともリンクするのですが、物理学も医学も自然科学なので、「メカニズムに沿って現象が生じている」ことは共通していると思います。自然科学のそういうところが好きだったのですが、先程言ったように物理学科は研究室に行かなかったりする人が多い。物理学をずっと使用して生きていくわけではない人が多い。要は「実学ではない」という感じがしました。
けれど医学は自然科学を使った上で実用性も富んでいるというところで「医学が良いな」と思うようになりまして、医学部に行こうとなって、大学を中退して受験をし直したんです。
そして無事医学部に入って6年間学生をしました。
学生時代は、再受験であるということもあり、周りの学生よりなるべく勉強するように頑張っていました。
その後2年間、市中病院で初期研修をしました。
市中病院での研修はすごく忙しくて、本当に寝に帰るだけの生活みたいな感じで。
特にとても忙しい病院で、1年目から全部の科を横断的に診るような病院だったのでしっかりと勉強ができたと思います。

総合診療科を選んだ理由
― 入院という体験をして医学を志した先生は、なぜ総合診療医を目指されたのでしょうか?
他に迷われた診療科などはありましたか?
学生のときは、医師を志したきっかけである感染症科医になろうとずっと思っていました。
ただ研修1年目の頃に、感染症科は患者さんと触れる機会もあるのはあるのですが、基本的には“Doctor’s doctor(医師の担当医)”という他科の先生からのコンサルトを受ける仕事がメインなので、患者さんと触れ合いたいという気持ちから、感染症科ではなく、初期研修開始後からは血液内科になろうと思っていました。医局に入局宣言もしていました。自分の興味関心は「病気や治療の科学的なメカニズム」がベースにあったので血液内科はぴったりだなって思っていたのですが、あるときに、今後高齢化が進む日本では、臓器横断的に患者さんを診る必要があるという現実を知るようになって。その頃から、「総合診療科がいいんじゃないか」と思うようになりました。
そのきっかけとなったのは、総合診療科に行った先輩が総合診療科について教えてくださって。血液内科もよかったのですが、総合診療科医になって臓器横断的に見つつ、地域の問題なども解決することができたらもっといいかもしれない、これからのニーズに合ってる、と思うようになって総合診療科を志すようになりました。
C&CH協会、CCH総診を選んだ理由
― 総合診療科プログラムはいろんな場所があったと思うのですが、どんなところで悩まれて最終的にC&CH協会の「CCH総診」を選ばれたのでしょうか?
当初は自分の初期研修病院の総合診療科を考えていました。初期研修中は病棟しか経験していなかったために、当初はホスピタリストとして色々な病気を見て治療をして、患者さんに関わっていくようなことを考えていました。しかし、研修が経過するにつれ、「入院が多すぎる」あるいは「社会的に孤立している患者さんが多すぎる」という2つの問題意識が芽生えました。例えば独居で生活保護の方が救急搬送で入院してくる。そんな方を研修しながら見ていると、
「退院後は誰がどうやって見ていくのだろう」とか
「この人身寄りないけど、今後どうしていくんだろう」とか考えるようになって。
もやもやするようになっていたんですよね。
そういった地域とか社会の問題を解決するためには、病棟にいるだけでは何もできないのではないか、という風に思うようになっていきました。
同じタイミングで、
地域に根差して在宅・外来・病棟を一気通貫で提供することができる“コミュニティホスピタル”を拡げていこうというC&CH協会を知りました。
在宅・外来・病棟をワンストップで医療を提供することで、そういったどうすればいいかわからない患者さんを救うことができるのではないかと思ったし、そこで患者さんに継続的な治療も行えるので、より有意義な医療を地域に提供できるのではないかと思って。そういう医療を総合診療プログラムとして成り立たせてる場所って、実は意外と探してもなかったですね。
僕の今の理想に合ったプログラムだなと感じたので、CCH総診に入りました。
…長くなるけど、あとちょっと理由がもう一つ!いいですか?
― 全然いいですよ!
CCH総診は「コミュニティホスピタルの立ち上げに参加できるプログラム」なんです。
総合診療科のない病院で総合診療科を立ち上げたり、
コミュニティホスピタルを作っていくことに参画することができるという特徴をもったプログラムです。
もちろん入院だったり、病棟の管理といった臨床もしっかりとやりたいのですが、最終的にはコミュニティホスピタルのような病院を増やすことで、質の高い医療を地域に提供する、それを広めていくということを研修中から経験できるのはかなり有意義かなと思っています。
マネジメントだったり、経営のことも学べるのもCCH総診を選んだ理由です。
― CCH総診で現在、2年半が経ちました。どんなところでどんなことをされてきましたか?(取材時:2025年10月)
最初の1年は愛知県の岡崎医療センターで、急性期の病棟の管理をしていました。
1年目の終わりぐらいから同善病院(東京都台東区)で在宅医療と回復期リハを経験しました。
その後は桜新町アーバンクリニック(東京都世田谷区)で在宅医療と、通年を通した継続外来をやって、
その後、東京都立広尾病院(東京都渋谷区)に行って総合診療科と小児科を学んで、
今年の10月からたちばな台病院(神奈川県横浜市)で総合診療科の立ち上げに関わっているという感じです。
― それぞれが全然違う場所で全然違う医療を経験されたようですが、振り返ってみていかがでしょうか?
そうですね、総合診療の勉強としては、色々なサイトで在宅医療、病棟、外来を経験することで、患者さんがどのように退院して、退院した後にどのように医療を提供していけるのか、という解像度がすごく上がりました。
色々なサイトで学ぶことができるプログラムなので、総合診療医としての経験の幅の広がりを感じています。
あとは色々な人と関わること。多分、他のどの診療科よりも色々な職種と関わっていると思うので、必要なコミュニケーション能力も学ぶことができているのではないのかなと思います。
― ちなみに、研修のなかで多職種と一緒に働いたことで何か気づきはありましたか?
たくさんありますね。まずは…「感謝されすぎる」というか…なんだろう。
自分がすごいというわけではなく、例えば同善病院で多職種と一緒に働いた後にですね、急性期病院で多職種と働くと、「先生、なんでそんなに話してくれるんですか」という感じになります(笑)。
多分急性期の病院のお医者さんは、全員というわけじゃないと思うのですが、人によってはあまり喋らない、会話をそんなにしない先生も多いみたいですね。
しかし僕たちは多職種で成り立っているので、普通にいつも通り会話するじゃないですか。
それが多分、急性期病院の看護師さんから見ると、ありえない光景みたいです(笑)。そこは、同善病院や桜新町アーバンクリニックで働いたことで自然と培われたすごくいいところじゃないかと思います。
―多職種と働くことで、先生がもともと解決したいと思った地域課題・社会課題につながっていきそうでしょうか?
だいぶ繋がっていくと思います。
外来や在宅で働いていても、私たちは患者対ドクターの場面しか見ていないです。在宅だと2週間に1回、外来だったら4週間に1回、入院は毎日診ますけど病院という特別な環境です。
結局、その患者さんの“日常”を見られるのは医師じゃないんですよね。
僕らは日常の中での特別な一瞬しか見られないので、日常を見ている人っていうのが多職種さんで、そこで色々な情報を仕入れて診療に生かすことが必須なのではないかなと思います。だから多職種と仲良くする、コミュニケーションを取ることっていうのは必要というか、必須だと感じています。

この先やりたいと思っている医療について
―いろんなサイト、急性期やホスピタリストから家庭外来とか在宅医療とか回復期も…全部されてきて、総合診療という幅の広い中で、伊藤先生がこの先やりたいなと思っているのはどんな医療でしょうか?
そうですね、最終的にはコミュニティホスピタルを広げていく活動の中核を担いたいと思っています。
現在、たちばな台病院ではコミュニティホスピタルに変革していくために総合診療科を立ち上げているのですが、そこで得られたノウハウがある程度固まったら、コミュニティホスピタルを広げる活動により積極的に参画していきたいと思っています。コミュニティホスピタルを広げることは重要ですし、この組織ではそれができるというところに一番の魅力を感じているので。
総合診療医やC&CH総診の魅力、お勧めしたい人とは
ー最後に、他の総合診療医になろうか迷っている方や、総合診療の中でもいろんなプログラムで迷っている方で、どんな人が合うと思うのか、こんな方におすすめ、などを教えてください。
まず総合診療を勧めたい人ですが。
僕は優柔不断で何かになろうか最後の最後まで悩んでいたのですが、同じように「まず何かになろうか迷っている人」。そういう人ってやりたいことがたくさんある人なんだと思います。診療科はたくさんあるので、迷ってしまうのは結構真面目な先生が多いと思うんです。
興味の幅が広い先生は、ぜひ総合診療科にいらしていただければと思います。
総合診療科は多様な臓器を横断的に見ることができますし、必ず自分が楽しいなと思う領域が見つかるはずです。あと総合診療科は、やはり地域に根差しているところなので、地域で活動することが好きな人にもおすすめですね。
そして、CCH総診を勧めたいのは、やはりコミュニティホスピタルを拡げたい、立ち上げたいという人。コミュニティホスピタルに賛同してくれる方は是非入ってもらいたいです。
コミュニティホスピタルは、ざっくりといえば地域で何でもやる病院って思ってもらえればいいと思うんですね。外来もやるし在宅もやるし病棟もやる、何でもやるような病院です。
何でもやるからこそ色々な働き方ができるし、幅広い患者さんを見ることができるので、色々なことをやりたい!という人にはお勧めです。あとはマネジメントをしたいとか経営のことに興味がある人もおすすめですね。

伊藤医師プロフィール
伊藤 龍一|CCH総診専攻医
横浜市立大学医学部卒業
聖路加国際病院初期研修修了
CCH総合診療専門プログラム
趣味:サッカー、サウナ
