当協会が支援しているコミュニティホスピタルについては、年度ごとの取り組みを振り返り、その成果と課題を次年度へとつなげるためにアニュアルレポートを作成していきます。
今回は、たちばな台病院(横浜市青葉区)の2025年度における転換への歩みと成果をご報告します。
昭和58年の開設以来、約40年にわたり地域密着型の急性期病院として歩んできたたちばな台病院は、年間約1,500台の救急受け入れや約800件の手術実績、さらにはコロナ禍における地域初の発熱外来設置など、この街の医療のセーフティネットを実直に担い続けてきました。
同院が位置する横浜市青葉区は、都心のベッドタウンとして発展した一方で高齢化が進んでおり、高度急性期を担う大病院が多い反面、「身近な地域で病状悪化に対応し、速やかに入院できる地域密着型の病院」が圧倒的に不足しているという地域課題を抱えています。同院は在宅医療を支える強固なバックベッド機能を担う中核病院として、以前から極めて大きな期待を寄せられていました。 こうした地域からの信頼と確かな急性期実績という土台を活かしながら、2025年度、当院はコミュニティホスピタルへの転換という新たな進化のステージへと踏み出しました。
本レポートでは、「治す医療から、治し支える医療への転換」に向けた、「人・組織づくり」「健康づくり」「地域づくり」の3つの領域における具体的な取り組み、現場のリアルな葛藤と次なる展望について、推進メンバーによる座談会形式で詳細にご報告します。
【出席者】
伊藤龍一 医師(総合診療科)
渡邉洋章 医師(総合診療科/在宅医療部)
相馬 師長(地域包括医療病棟)
鈴木 係長(地域連携室)
西出 さん、稙田 さん(運営支援)
1. 1年前の課題感:専門外患者の「お断り」と救急依存からの脱却
ーー 本日はお時間をいただきありがとうございます。コミュニティホスピタルの取り組みを始めて約1年が経ちました。この1年間の変革のプロセスを内外的にもしっかりと記録に残したいと考え、このインタビューを企画しました。
まずは1年前、あるいはそれ以前の状況についてお伺いします。当時、病院の体制や地域との関係において、どのような問題意識をお持ちだったか、一言ずついただけますでしょうか。
伊藤: たちばな台病院に着任して半年が経ちますが、当初、認識していた課題感としては、まずは縦割りの臓器別診療がメインだったことです。そのため、専門外の領域の患者さんの受け入れ要請を、どうしてもお断りせざるを得ない場面がたびたびあったと聞いています。また、これまでは救急に少し依存しているような経営体制だったため、そこをどう変革していくかという問題意識がありました。
西出: そうですね。結局、診療科が限定されている部分もあったので、診ることが難しい科があったり、当直体制の兼ね合いも含めて、カバーできる範囲がそんなに広くはなかったんです。現実問題として、体制上お断りせざるを得ない場面が出てしまっていました。
鈴木: 地域連携室としても全く同じでした。やはり受け入れができる科の幅が狭まっていたので、広く大まかな区分けでの受診相談に対して、なかなかスムーズな対応ができていませんでした。ただ、それは以前から病院の中では「仕方がないよね」と諦め半分で受け止められていた部分もあったと思います。それでも、現場としては「とりあえず救急は断らないようにしよう」という気持ちで、一度受け入れてから、うちで対応できないものは他院へ転送する、という体制で何とか粘っていました。
西出: 総合診療の先生方が来られるまでの半年間に取り組んだことは、院内のガバナンス調整や、スタッフが働きやすい環境を整えることでした。診療のことは現場にお任せしつつ、先生方が入ってきたときに動きやすいよう、事前に内部の調整を進めていたというのが1年前の状況でした。
相馬: 私の病棟はもともと整形外科がメインの病棟なのですが、当時は整形の先生方の負担が非常に大きくなっているのを目の当たりにしていました。そこへ総合診療の先生が来てくださったことで、内科的な面を気軽に診ていただけるようになり、患者さんにとっても、整形の先生方にとっても、かなり助かる体制になりました。この動きを見据えて始まったのが、地域包括医療病棟への転換というプロジェクトです。

2. 地域包括医療病棟への転換:外科系スタッフの葛藤と多職種の融合
ーー ではまず、その「地域包括医療病棟」への転換のお話から深くお伺いします。具体的にどのような取り組みをされ、現在の達成状況はいかがでしょうか。
相馬: 地域包括医療病棟を始めるにあたっては、クリアしなければいけない施設基準がたくさんありました。そのため、まずは病棟スタッフに対して「なぜこの病棟に変えるのか」「ADL(日常生活動作)を低下させないために、どんな点に気をつけなければいけないか」を十分わかるように説明することから始めました。
実は、先行して地域包括医療病棟を始めた他の病院で、看護職が大量に離職してしまったという話を学会で聞いていたんです。「思っていた看護と違う」と。それが私の一番の懸念でしたし、今も常にその危機感を持っています。うちの病棟のスタッフは、もともと整形外科や消化器外科といった「外科がやりたくて」集まってきたメンバーなんです。手術をして、良くなって、元気に帰っていくプロセスにやりがいを感じている。
そこに、誤嚥性肺炎などの内科疾患を抱えた、高齢の患者さんが入ってくるようになり、自宅に帰すためにADLを上げるケアが必要になりました。病院の体制上、どうしても外科と内科の患者さんが混ざってくるのはやむ得ないと理解を得ながら、とにかくスタッフのモチベーションが落ちて「もう辞めたい」とならないように配慮することに、一番注力しました。
ーー 実際に内科系の患者さんを診るようになって、現場の大変さはどういったところでしたか?
相馬: 透析をされている患者さんや、いつもとは違う慣れない内科疾患の業務が入ってきたこと。そして何より、内科の患者さんは入院期間が長く、退院の目処が見えにくいことです。外科は「何日に手術をして、傷が良くなったら帰る」と見通しが立ちますが、内科はベースがそもそも違う。正直、スタッフが新しいやりがいを感じるレベルには、まだ到達していないと思います。
今年の冬場、夏に比べて整形の手術件数が少なくなる一方で、内科の患者さんが混在して余計に忙しくなった1月頃、やはり「辞めたい」というスタッフがちらほら出ました。うちの病棟はこれまで、お看取りになる患者さんが月に1人いるかいないかだったのですが、1月は4〜5人重なったんです。「こういう患者さんを見たくないから、私はここに来たのに」という、ストレートな苦手意識の声も聞かれました。
そこで、施設基準を満たすことも大事ですが、スタッフの気持ちが潰れないよう、入院時の段階でターミナル期に近すぎる患者さんを避けるなど、患者層の選定を少し意識的に強化しました。そうすることで、一時的ではありますがスタッフの気持ちも少しずつ落ち着いていきました。
伊藤: どのように病棟を使うか、どういう患者さんが適正なのかは、常に考えていかないといけない課題ですね。ただ、現時点で施設基準はクリアできていますし、急性期病棟に比べて入院日数を長めに取れることは、治療する側にとってもできることが多いので、病院や地域にとって必要な存在だと感じています。何より、多職種が介入する機会が増えて、コミュニケーションの量が増えたのは素晴らしい環境の変化だと思います。
相馬: そうなんです。専任のリハビリスタッフや栄養士さんが病棟に入ってくれたことで、環境がすごく良くなりました。実は以前、病棟スタッフとリハビリスタッフの間で、アプローチの方向性に少し乖離があったんです。病棟は「翌日からでもガンガン離床させて歩かせたい」という意識が強かったのですが、リハビリ側は患者さんの痛みに応じて優しく進めたい方針で、病棟側からすると少し物足りなさや不満がありました。
しかし、地域包括の専任リハビリさんが来てからは、目的意識のレベルが一緒になり、「よし、トイレに行ってもらおう」「離床を進めよう」と、同じ目線で分担して平行して動けるようになりました。そこに栄養士さんも入って相談し合える。この協力体制ができたことは、すごく良い変化だと感じています。
渡邉: 私は数年前に別の病院で、「地域包括ケア」病棟で働いていた経験があるのですが、今回新設された「地域包括医療」病棟は、まさに当院のような規模の病院に国や地域が求めている機能そのものだと感じています。
ただ、師長がおっしゃったように、「治す医療」から「治し、支える医療」へのシフトは一朝一夕にできるものではありません。急性期に慣れているスタッフの戸惑いを見ながら、総合診療医として何かできることはないかと常に考えていました。
相馬: でも本当に、総合診療の先生方が来てくださって在宅医療を盛んにやっていく中で、内科の患者さんは特に、在宅に繋げやすいと感じています。病棟と在宅がワンセットになることで、この機能の価値がすごく出てきていますね。
3. 整形外科とのコラボレーション:専門医の負担軽減と看護師の安心
ーー 総合診療の先生方が入られたことで、これまでの整形外科との関係性にはどのような変化がありましたか?
伊藤: 当院の整形外科は超高齢の患者さんがほとんどです。そうすると、内科的な合併症を併発したり、超高齢の方の手術前後の全身管理を、忙しい整形の先生方だけで綿密に行うのは限界がありました。整形の先生方には手術に特化してもらった方が、クオリティの高い手術ができます。
そこで、内科的にできるフォローは私たちが診ようということで、「この患者さんは高齢で少し心配だから診てほしい」「対応に悩む症例がある」というときに声をかけてもらい、一緒に並走して診る取り組みを始めました。
相馬: これは本当に助かっています。以前は院長や、もともといた内科の先生に相談していましたが、先生方もたくさんの患者さんを抱えてお忙しかったので。総合診療の先生が来て相談しやすくなったことで、手術までのフォローも術後のちょっとした尿路感染症などのトラブルに関しても、すぐに動いてもらえるようになりました。整形の先生だけでなく、私たち看護師にとっても、ハラハラして見守る状況がなくなって本当に働きやすくなりましたね。
4. 地域連携の強化:「ドクターと一緒に行く」攻めの紹介・受入れ体制
ーー 続いて地域連携についてお伺いします。鈴木室長、この1年間でどのような活動をされてきましたか?
鈴木: 地域連携室としては、今までも大学病院の連携カンファレンスに参加するなどしていましたが、今年度はそこに総合診療の先生方が一緒に入ってくださり、地域のクリニックさんへのご挨拶回りにも同行してくださいました。
今までは事務方だけで回っていましたが、先生同士が直接「顔の見える関係」になることで、圧倒的に相談がしやすくなりました。医師同士で直接「こういう患者さんなんだけど」とプレゼンし合ってお話ししていただけるので、より早い段階で治療や転院の調整が進むようになりました。
ーー その結果、紹介件数などにも変化はありましたか?
鈴木: はい、紹介件数も増えています。当院は二次救急の病院なので、受け入れに一定の基準はありますが、総合診療の先生が「こういう症例でも診ますよ」と言ってくださる。今までは「これはたちばな台病院では頼めないかな」と躊躇されて、結果としても断らざるを得なかったような少し重めの案件や、調整が必要な案件も直接ご相談いただけるようになりました。
先日の定期的な振り返り会議でもデータが出たのですが、以前は月に10件ほどお断りせざるを得なかった(当院では対応できなかった)事例が、総合診療の先生が来てからは劇的に減って、今では月に2〜3件ほどになっています。受入率がめちゃくちゃ上がりました。
伊藤: 鈴木さんは本当に顔が広いので、私はいろんなところに連れ出してもらって、顔出しをさせていただいただけですよ(笑)。でも、それによってお互いの温度差が解消したのは確かですね。
渡邉: 開業医のクリニックさんだけでなく、高度医療機関との関係性も変わってきています。先日も、近くの病院さんから当院の在宅医療部にご紹介いただいた患者さんがいたのですが、こちらから「退院前カンファレンスをやりましょう」と提案したところ、非常にスムーズに受け入れていただきました。相談件数も増えていますし、「(たちばな台病院に)こういう患者さんを送ってもいいんだ」という認知が、地域の先生方の間で少しずつ広がっているのを実感します。
他の病院の方からも「最近、たちばな台病院さん変わりましたよね」と言われることが増え、周囲からの見られ方が変わってきているなと感じます。
鈴木: 今後は、ケアマネジャーさんや訪問看護ステーションさんといった、地域の介護職の方々との連携をさらに強化していきたいです。介護スタッフの方々から「たちばな台病院に連絡すれば安心だ、相談しやすい」と思ってもらえる場を作りたい。ケアマネジャー連絡会など、お声がけをいただいた地域の集まりには積極的に参加するようにしています。日頃の情報交換のパイプを、これからも大切にしていきたいですね。

5. 在宅医療部の急拡大:ゼロからのオペレーション構築と専門外来連携
ーー 渡邉先生、在宅医療部の取り組みについて教えてください。今年度はかなり大きな動きがあったとお伺いしています。
渡邉: はい、当院の在宅医療部はもともと、居宅30人、有料老人ホーム30人、特養100人ほどを診るかなり小規模な体制でした。それが今年の4月に大きなターニングポイントがありました。地域で長年外来と訪問診療されていたクリニックの事業継承をすることになり、それを経て、居宅数が100人以上増え、現在は特養(約230人)も含めて全体で約400人規模にまで急拡大しました。
ただ、急拡大した一方で、体制の再編成には非常に苦労しています。今は、新しく加わった看護師3名、事務3名、そして運営支援のスタッフなどを合わせた体制で、まさに「ゼロからオペレーションを作っている」段階です。出てくる課題を一つ一つ、フェイス・トゥ・フェイスで毎日少しずつ構築しています。
また、何百人も入所されている特別養護老人ホームさんとの連携において、これまですべてFAXと電話でやり取りをしていたのが膨大な手間になっていました。そこへ医療DXとして多職種連携ツール(MCS)を導入し、ICT機器を活用した効率的な情報共有を少しずつ進めているところです。
ーー 病院からの退院患者さんを在宅で受ける、といった院内連携はいかがですか?
渡邉: はい、非常に増えています。病院としても、重症患者への対応を強化していく方針があるので、外科や消化器科の先生からがん末期の患者さんを積極的に引き受けたりしています。
さらに新しい試みとして、7月以降にオープンを予定しているのが、脳神経内科とのコラボレーションです。当院の外来には、大学病院からの派遣の先生が診ている神経難病の患者さんが多くいらっしゃいます。これまでは、その患者さんたちが通院困難になると、うちの在宅では診きれず、他院の在宅へ送らざるを得ませんでした。
今後は、その患者さんたちを当院の在宅医療部でそのまま引き取ります。月に1回は脳神経内科の専門医が訪問し、もう1回の診察は日々の生活を支える総合診療医が訪問する、というスケジュールで今進めています。難病の患者さんが、外来に通えなくなっても住み慣れた地域でそのまま同じ病院のケアを受け続けられる。これは臓器別専門医と総合診療医が同じ病院にいる、当院ならではの大きな強みになると考えています。

ーー 専門医の先生と総合診療医が、在宅の場でもコラボレーションするわけですね。
渡邉: そうです。私たち総合診療医だけでできることには、どうしても限界があります。たちばな台病院のように、臓器別専門医の先生方がしっかりといて、病棟や在宅の場でコラボレーションできる環境は、総合診療医としてのレベルアップにもつながりますし、病院としての対応力の幅を広げる意味でも、非常に素晴らしいことだと感じています。
6. 職場環境の改善と人財確保:定着率を高め、1年で人員体制を構築
ーー こうした様々な取り組みの裏側で「採用」と「組織づくり」についても、この1年で驚くべき変化があったようです。当時の状況を聞かせていただけますか?
稙田: はい。1年前までは、採用は完全に外部の紹介会社頼みになっていました。そこで、紹介会社以外の求人媒体の選定を見直したり、ハローワークの活用を広げるなど、まずはより多くの方に求人情報が届く仕組みづくりから始めました。
ーー 募集した職種は、かなり多岐にわたっていたようですね。
西出: そうなんです。リハビリスタッフ(PT・OT・ST)や管理栄養士、臨床検査技師、医療事務、診療情報管理士、さらには看護師、看護助手や総務、薬剤師、外来クラークまで、たくさんの職種を同時に採用していく必要がありました。
ーー 採用活動において具体的にどのような工夫やアプローチをされたのでしょうか。
稙田: 紹介会社が持っていた当院の印象は、職員が定着しておらず、すぐに辞めてしまう病院だということでした。実際、退職者も多かったので、まずは職員が働きやすいように相談窓口を新設するなど、組織改革による「労働環境の改善」を、誠実に伝えました。その上で、私たちが目指している「コミュニティホスピタルプロジェクト」や「地域包括医療病棟」について、資料を使って何度も何度も、紹介会社の方々に私たちのビジョンをお伝えしていきました。
最初はピンと来ていなかった担当者の方々も、丁寧に説明を重ねるうちに、私たちの取り組みを評価して前向きに応援してくれるようになりました。
ーー 求職者の方々は、具体的にどういった部分に魅力を感じて集まってくれたと感じますか?
稙田: 一番刺さっていたのは、「地域の方々と密に触れ合い、コミュニケーションを大切にしながら、予防医療にも取り組んでいく」というコミュニティホスピタルらしさの根幹の部分です。昨年参加した地域の大きなお祭り(どんたく祭り)の様子や写真もお見せしながら、「医療の枠を超えて地域と繋がっていくんだ」というワクワク感を面接の場でもしっかりお伝えしました。
それと同時に、これまでの淡々とした「選考する面接」の雰囲気をガラッと変えました。今は病院が求職者様から「選んでもらう時代」です。求職者様が来られたら、お迎えの段階から私が付き添い、歩きながらアイスブレイクをして緊張をほぐすようにしました。「次に面接する部署の管理職は、こういう優しい人だから安心してくださいね」と事前に伝えて、リラックスして本来の自分を出してもらえるようにしたんです。面接に入る管理職の皆さんとも事前にすり合わせをして、まずは自分たちの部署の魅力や良いところを自ら求職者様にアピールしてもらう形へシフトしました。
ーー 人を選ぶ基準や、その後の定着のためのフォローについてはいかがですか?
稙田: 人を選ぶ基準については、評価シートを導入して点数制にし、スキルだけでなくパーソナリティや勤務条件を可視化して客観的に判断できるように変えました。
そして、昨年夏以降だけでも50名以上の新メンバーが入職してくれたのですが、ここで終わらせずに「定着のためのフォロー」にも注力しています。入職後3ヶ月の時点で、各管理職に評価シートを記入してもらい、確実に対話の時間を設ける「フィードバック面談」を義務化しました。面談の進め方に悩む管理職がいれば私が書き直しや指導を行い、現場のフォローが絶対に落ちないようにリマインドと声かけを徹底しています。その結果、入職した皆さんが「この病院に入って本当に良かった」と笑顔で言ってくださるようになり、現在は離職率も劇的に下がって、人員体制はほぼ充足した状態に来たと思います。
ーー 1年で人員体制を整備して、定着率が向上したのは大きな成果ですね!組織内の空気自体も変わってきているのではないでしょうか。
相馬: 病院の雰囲気は変わってきています。以前は、業務を回すので精一杯だったことが、人員が補充されたことで、前向きな雰囲気になりましたし、組織内の様々な場所で対話が生まれています。

7. 今後の展望:入退院支援のワンストップ化と病院全体のMVV共有
ーー 最後に、これから先、病院として、また各部署としてどのような姿を目指していきたいか、今後の展望をお聞かせください。
伊藤: 私は今、次のステップとして「入退院支援センター」の機能を強化したいと考えています。地域連携室と入退院支援の機能を力強く一体化させ、そこに医師が直接入る。地域から「困った患者さんがいる」と相談が来た瞬間に、医師(特に総合診療医)の視点で「この人はどんな治療をして、どれくらいで、どの病棟に入院し、どこに帰れるのか」という退院までの見取り図をワンストップで、かつスピーディに判断できる仕組みを作りたいのです。
窓口に医師がいることで、病棟の選別や患者さんの選定が圧倒的にしやすくなります。そして、適切な場所にしっかり帰してあげる。これができるようになれば、患者さんや地域からの信頼はさらに高まりますし、救急の受け入れ枠も広がり、結果として病院の収益性も上がっていきます。
そのためには、当院のすべてのスタッフが同じ目的意識を持って動かなければいけません。まだ臓器別専門医の先生も含めて、病院全体での認識が統一しきれていない部分があるので、今後は勉強会などを通じて、入退院支援センター主導で医師の意識の統一化を図っていきたいと思っています。
相馬: 病棟の立場としては、退院される患者さんの在宅支援に関して、スタッフの知識がまだ十分ではないと感じています。今はまだ入退院支援の専門部署に頼りきっている部分があるので、病棟スタッフ自身が知識をつければ、「この人にはこういう在宅サービスを繋げよう」といった、退院先の選択肢やケアの厚みを自分たちで広げられるようになるはずです。そういう学びの環境を作っていきたいですね。
あとは、やっぱり病院全体で「どっちの方向に向かっているのか」の理解を深めることです。まだ元の急性期の感覚が残っている先生方も含めて、みんなが同じ目線で、同じ方向を向いてやっていけるようになればいいなと思っています。
渡邉: まさにそこが重要ですよね。ここ半年ほどで「コミュニティホスピタル」という言葉は院内で見え始めていますが、実際それが何なのか、まだみんなの解像度は高くないと思うんです。今年度は、「この地域の中でどうやって患者さんを支え、そこに私たちがどう関わっていくのか」というミッション・ビジョン・バリュー(MVV)を、みんなで話し合って作っていけるようになることが第一の目標です。
例えば、「レスパイト入院(介護者の休息のための入院)」などに対して、「医療的な治療を何もやらないのに、なぜ入院させるのか」という理解がまだ追いついていない部分もあります。「なぜコミュニティホスピタルがこういう患者さんを診るのか」を、みんなで考えて理解していくことが大切です。
そして、もう一つは、病院の外に向けて「総合診療」の価値を発信していくことです。欧米ではホスピタリスト(総合診療医)が外科の患者さんの内科管理をすることが当たり前になっていますが、日本ではまだ十分に理解されていません。当院の中で、私たちが病棟を診て、外来をやって、在宅もやっている姿をしっかりと院外へ発信し、認知度を上げていきたいです。
ーー 病棟のスタッフと在宅のスタッフの、文化の融合も楽しみですね。
渡邉: はい。コミュニティホスピタルとしての理念を院内に浸透させる意味でも、「病棟看護師の在宅1日研修」をぜひやりたいと思っています。普段、病棟でベッドの上の姿しか見ていない看護師さんや栄養士さんが、実際に患者さんの在宅での生活背景を見る。その「生活の支持座」を目にする研修ができれば、草の根的に「これは良い取り組みだ」と共感してくれる人が増え、目の色が変わるスタッフがたくさん出てくるはずです。
西出: 総合診療の先生方が来てまだ半年、地域包括医療病棟が始まってまだ数ヶ月ですが、取り組んでいくことで確実に病院も、人も変化しているなと実感しています。今後、ますます変わっていくのが楽しみですね。苦しい立ち上げのステージを乗り越えて、ここからはみんなで変革を楽しめるステージに入っていけるよう、これからも頑張っていきたいです。
ーー 総合診療の先生方が参画されて半年しか経っていないにも関わらず、病院全体で少しずつ取り組んできた取り組みが、いろいろな場面で成果につながってきているのを感じました。2026年度もさらにこの変革が進展していくよう応援しています。本日はお忙しいところ、本当にありがとうございました。
